2012年 春期 応用情報技術者試験 問10
SI案件の赤字プロジェクト対策
中堅ソフトウェア業L社は、官庁・公共団体・民間企業からのソフトウェアの開発請負事業を中心に、事業を拡大してきた。SE部門は、官庁・公共団体を担当する第一SI事業部、民間企業を担当する第二SI事業部、SI案件で開発した部品の標準化とパッケージ事業を担当するパッケージ事業部から成る。パッケージ事業部は、標準化した部品とパッケージの適用について、第一SI事業部・第二SI事業部を支援する。SE部門の責任者は、L社の親会社から着任したばかりのM専務である。
[第一SI事業部・第二SI事業部の概況]
今年度は、経営目標にSI案件の着実な完遂を掲げて取り組んできたが、大規模SI案件を中心に、既に10件が赤字になっている。昨年度は受注段階でのリスク管理強化を図ったので、赤字の主な原因は、受注段階からシステム構築段階に移っている。
赤字対策は、事業部内でSI案件のプロジェクト(以下、プロジェクトという)ごとに打たれているが、期待されたほどの効果は出ていない。各事業部長がプロジェクトの自助努力による解決を期待するあまり、プロジェクト採算の悪化は、社長・専務を含めた経営トップに対してタイムリーに報告されていなかった。経営トップには、プロジェクトの損益状況を各事業部から四半期に一度報告するルールになっている。
①M専務は、現状を踏まえて今の赤字対策では不十分と判断し、新たな赤字プロジェクトの発生を防ぐために、N部長を事業部には属さない直属の部下とし、対策の立案を指示した。N部長は、第一SI事業部、第二SI事業部で大規模プロジェクトや予算の厳しいプロジェクトを担当した経験がある。
[調査・評価チームの活動]
N部長は、赤字プロジェクトの対策として、次の(1)~(6)の活動案を作成した。
(1) 赤字プロジェクトの実態把握と対策立案を短期間で実施するために、プロジェクトを調査して評価し、対策を立案する組織(以下、調査・評価チームという)を立ち上げる。この調査・評価チームは、M専務が直接管轄する。調査・評価チームのメンバは、各事業部からベテランSEを集める。
(2) 調査・評価チームの調査結果は、経営トップ、当該プロジェクトに報告する。
(3) 調査・評価の対象プロジェクトは、受注額1千万円以上で、開発中の全SI案件とする。開発完了及び開発未着手のSI案件は、調査の対象外とする。
(4) 調査・評価の方法は、プロジェクト側に調査シートを事前に渡し、面談形式で行う。面談の対象者は、プロジェクトマネージャ(PM)とその上司とする。
(5) 調査・評価の内容は次のとおりとし、赤字プロジェクトについては、収支の詳細とともに赤字の原因も把握する。
・プロジェクトのスコープ ・体制 ・日程計画と進捗 ・品質管理 ・原価管理 ・変更管理プロセス ・対応中の問題とその対策 ・スコープ拡大と品質悪化、原価増大に関して潜在するa
(6) 対策は、調査・評価の内容を基に整理し、事業部ごとの対策と事業部横断の対策に取りまとめる。例えば、bにも調査・評価の内容を報告し、各事業部内で情報の共有と対策の徹底を図ってもらうことは、事業部横断の対策である。
M専務は、この活動案を承認して調査・評価チームのリーダにN部長を任命し、早急に各プロジェクトを総点検するように指示した。N部長は、各事業部から集めた調査・評価チームのメンバに対し、全社的な立場から、調査・評価と対策の立案を実施するように指示し、1か月間の調査・評価の活動に入った。
[調査・評価の結果]
(1) 赤字プロジェクトの原因
赤字の原因は、プロジェクトレビューの実施方法の不備、プロジェクト管理を支援するSEの不足、発生した問題のPMから上位へのエスカレーションの遅れ、標準化部品の適用上の問題などであった。
例えば、経験の浅い若手PMが担当したプロジェクトで、原価が急増した事例があった。原因は、プロジェクト特性に応じたレビューが行われなかった点にあった。
プロジェクトレビューでは、SI案件に応じた業種ノウハウ・業務ノウハウ、先端技術、標準化部品の活用ノウハウに精通するレビューアの参加が必要とされるにもかかわらず、プロジェクト内部の関係者だけで実施していた。この結果、潜在するaの洗出しが不十分になり、対策が遅れた。
赤字の発生していないプロジェクトの多くでは、プロジェクトレビューの開催タイミング・頻度、メンバの選定、事前検討資料をSI案件に応じて強化していた。
(2) SI事業の問題点
調査・評価チームは、赤字プロジェクトの原因を踏まえて、対策を取るべき問題点を次の4点に整理した。
問題点1:他事業部ももつ、特定の業種ノウハウ・業務ノウハウ、先端技術、標準化部品の活用ノウハウが要求される条件において、PMによるプロジェクトレビューの実施方法の不備が、問題を拡大させていた。
問題点2:ある事業部ではプロジェクトの仕事量に対してSE数が不足し、同時期に別の事業部ではSE数が過剰であったが、事業部の枠を越えた要員調整は実施されていなかった。
問題点3:プロジェクトからの問題情報がタイムリーに上位へエスカレーションされず、他事業部の問題情報の共有も不十分であった。
問題点4:標準化した部品を使う開発においては、適用ガイドの整備が不十分であり、品質面での問題が起きていた。
[対策]
N部長は、調査・評価チームがまとめたSI事業の問題点について、各事業部が主体となって実施する対策と、事業部横断的に実施する対策を、表1にまとめた。
問題点 | 各事業部の対策 | 事業部横断の対策 |
---|---|---|
問題点1 | c | ②プロジェクトレビューの相互支援 |
問題点2 | - | 事業部の枠を越えた要員調整の実施 |
問題点3 | 受注額・問題に応じた上位へのエスカレーション機能の強化 | 問題情報の共有と対策の徹底 |
問題点4 | 適用ガイドの整備 | 適用事例紹介、SE教育の実施 |
現在、各事業部に他事業部のプロジェクトを支援する機能がないので、新組織を立ち上げて事業部を横断する対策の推進に当たることにした。社長の最終承認を得て、調査・評価チームの主要なメンバを新組織の所属とし、M専務が直接管轄することになった。