2009年 春期 応用情報技術者試験 問3

SWOT分析

J社は,ガラス用フィルムシート(装飾や日照調整などの用途に合わせてガラスに張るフィルム)の製造・販売及び施工を行う中堅企業である。品質第一を経営理念とし,製品の品質・機能は市場で高く評価されている。主力製品は小・中規模建築向けの装飾用フィルムシートと自動車向けの断熱用フィルムシートである。装飾用フィルムシートの主要顧客は小・中規模建築の元請建設業者である。フィルムシートの販売だけでなく外部の施工業者を活用した施工サービスも提供しており,積極的に施工業者を育成するなど施工体制を整えている。J社は原料調達・製造・販売・物流を自社で一貫して手掛けている。

J社は二つの経営課題を抱えている。一つは,主力製品の売上が減少傾向にあるので,新たなヒット製品の開発による売上の回復である。もう一つは,配送の改善による納期遅守率の向上である。社長は,経営企画室のK氏に経営課題に対応した中期経営計画の方針を検討するよう指示した。

【J社の経営環境】

K氏は中期経営計画の方針を検討するに当たって,社内横断的なプロジェクトチームを立ち上げ,J社の経営環境の入念な調査を行った。次の①~⑩は調査の結果判明した事項である。

① 建設業界において工事需要が落ち込み,競争が激化している。 ② 競合他社の廉価品が売上を伸ばしている。 ③ 自動車分野で,強度が高く優れた断熱性をもつ高機能性ガラスが普及しつつある。 ④ 住宅業界において新規着工件数が停滞している。 ⑤ 住宅リフォーム市場は拡大傾向にある。 ⑥ 一般家庭向けセキュリティ(防犯)市場が拡大傾向にある。 ⑦ 省エネ対策へのニーズが高まっている。 ⑧ J社の販売価格は市場平均よりも2割ほど高い。 ⑨ 顧客情報が営業員に属人化しており,営業力,販路開拓力が弱い。 ⑩ 経営資源が分散しがちで次の主力製品を生み出せなくなってきている。 ⑪ 物流部門の配送先確認・配送計画立案に時間がかかるようになっている。 ⑫ 高機能・高品質な製品の開発力がある。 ⑬ 施工業者との連携が強く,柔軟な施工体制をもつ。

プロジェクトチームは,経営環境の調査結果を表にSWOT分析表として整理し,考察を行った。

J社SWOT分析表(作成途中)
強み(S)弱み(W)
⑫ 高機能・高品質な製品の開発力がある。
⑬ 施工業者との連携が強く,柔軟な施工体制をもつ。
⑧ J社の販売価格は市場平均よりも2割ほど高い。
⑨ 顧客情報が営業員に属人化しており,営業力,販路開拓力が弱い。
⑩ 物流部門の配送先確認・配送計画立案に時間がかかるようになっている。
機会(O)脅威(T)
⑤ 住宅リフォーム市場は拡大傾向にある。
⑥ 一般家庭向けセキュリティ(防犯)市場が拡大傾向にある。
① 建設業界において工事需要が落ち込み,競争が激化している。
② 競合他社の廉価品が売上を伸ばしている。
③ 自動車分野で,強度が高く優れた断熱性をもつ高機能性ガラスが普及しつつある。

【SWOT分析の結果と考察】

(1) 弱みの分析

販売価格面で競合他社の廉価品と対抗するために製品の品質を下げた場合,経営理念に外れることになり,J社製品への信頼を失墜させるおそれがある。

単純な低価格戦略を採るのは妥当ではない。また,顧客情報管理体制の整備による営業力の強化や,配送先確認・配送計画立案の迅速化を図る必要がある。

(2) 脅威の分析

高機能性ガラスはJ社のフィルムシートと形は異なるが,同様の顧客ニーズを満たすので,J社のフィルムシートにとってaの脅威となる。高機能性ガラスのbがJ社のフィルムシートよりも高い場合,この脅威は増大する。

(3) 強みと機会の分析

高機能・高品質な製品の開発力などの強みを生かして,一般家庭向けセキュリティ(防犯)市場の拡大などといった機会をとらえるべきである。

K氏は,(1)~(3)の分析結果に基づき,新製品戦略及び営業・物流戦略を中期経営計画の柱とすることにした。

【新製品戦略】

一般家庭向けセキュリティ(防犯)分野や省エネ対策分野向けに,高機能性ガラスよりも優れた新製品の企画・開発を行う。新製品の企画・開発に注力するために,経営資源が分散しがちな状況を是正する対策を実施する。また,企画・開発部門では新製品の開発に当たって,十分に顧客の声を分析する。

【営業戦略】

営業員の増強やインターネット販売によって一般家庭向けの販路開拓を行う。また,営業力の強化のために次の施策を実施する。

・顧客情報管理システムを構築する。具体的には顧客データベースを整備し,営業員や施工業者が収集した顧客情報の入力・登録ができるようにする。これによって,顧客情報を一元管理するとともに営業部門内で情報共有を実現する。

・顧客情報には,顧客名・所在地(住所)などの基礎情報のほかに,製品に対する要望,施工先に関する情報なども含める。

・①営業員に対して,顧客情報の入力・登録を推進するための方策を実施する。

【物流戦略】

経営資源が分散しがちな状況を是正するために,製品配送,在庫管理などの物流機能の大部分を3PL(サードパーティロジスティクス)事業者にアウトソースする。

配送計画立案は,施工業者の手配と併せて行うので,引き続きJ社が行う。

従来は配送先の情報は,受注後,物流部門が直接顧客に確認していたが,今後はこの確認作業をなくし,効率の良い配送計画を迅速に決定できるよう改善する。

【社長の見解】

K氏は中期経営計画の方針や新製品戦略及び営業・物流戦略の検討結果を社長に報告した。報告を受けた社長は,③営業部門だけでなく,全社的な情報共有を図るよう指示した上で,報告内容を承認した。

出典:平成21年度 春期 応用情報技術者試験 午後