システムインテグレータのA社は,得意先である精密機械メーカのB社から,人事管理システム更新の案件を受注した。B社の人事管理システムは,A社が開発した人事管理ソフトウェアパッケージを導入して2年前に構築したものである。プロジェクトマネージャ(PM)には,導入時の中核メンバであったA社の開発部のC君が任命されている。今回の案件は,B社が取り組んでいる,グループ会社再編に伴う人事制度の見直しに対応するものである。ユーザ部門であるB社の人事部からは,数名の部員が,要件定義のテーマ別検討会と受入テストに参画する予定になっている。今回の開発期間は6か月で,A社には,同様の案件・開発期間の数件の実績がある。C君は現在,プロジェクト計画を作成中で,その中のリスク対応計画の策定に着手した。 C君は,今回の案件のリスクを特定する作業を開始した。まず初めに,①これまでのA社における人事管理ソフトウェアパッケージの導入及び更新プロジェクトで発生したリスクの一覧を参照して,リスク情報を収集した。さらに,②これまでにA社が手掛けた会社再編に伴う更新案件を担当したPM数名に個別に会って,当時起こった様々な事象などを聞いてリスク情報を収集した。そのうち,PMのD さんが担当した案件では,異動履歴の全件を対象とする処理について,大量の履歴を自動生成して行ったテストでは問題がなかったが,本番でレスポンスが異常に悪化する事象が発生して苦労したとのことであった。今回の案件でも,確率は低いものの,同様なリスクが考えられることが分かった。C君は,それらの情報を基に,今回の案件に合致すると思われるリスクを洗い出し,リスク登録簿を作成した。 C君が次の手順に進もうとしていたところ,B社から営業部に,納期を0.5か月前倒ししたいが可能かとの打診が入った。営業部から開発部に,納期の0.5か月前倒しを達成した場合は,成果報酬として発注金額が300万円上積みされるとの連絡があった。C君は,その状況をプロジェクトにとってaとなるリスクととらえ,リスク登録簿に追加した。
(1) 本文中の下線①,②の技法を何と呼ぶか。それぞれ解答群の中から選び,記号で答えよ。
(2) 本文中のaに入れる適切な字句を,5字以内で答えよ。
C君は,リスク登録簿に列挙したそれぞれのリスクについて,発生確率とプロジェクトへの影響度を査定して,高・中・低の3段階の優先度を付けた。また,リスクが発生した状況を想定して,影響度を金額に換算し,影響金額とした。次に,発生確率,影響金額及び優先度を考慮しながら,それぞれのリスクに対応する戦略(以下,戦略という)を検討し,優先度が高のリスクだけをまとめて,表1のリスク登録簿更新版を作成した。 表1を作成する際に,C君は,No.1のリスクについては,それを確実に実現させたいと考え,bの戦略を選択した。また,今回の案件は,納期の目標達成が必須要件なので,発生確率が高いNo.3のリスクについては,確実に回避したいと考えた。 表1以外のリスクについては,その脅威を全て除去することは困難であり,かつ,発生確率も非常に低いことから,特に対策をしないcの戦略をとることにした。ただし,表1以外のリスクが発生した場合の対応コストを補うために,コンティンジェンシ準備を設けることにした。 続いてC君は,今回の案件を担当するメンバに,表1の各リスクへの対策案を検討するよう指示をした。
(1) 本文中のd,eに入れる適切な数値を答えよ。ただし,対応コストは,当初見積りに対する,対策した場合の見積額の変動を表すものとし,金額は千円の位を四捨五入して万円単位とする。
(2) 本文中の下線③において,C君が表2のNo.2のリスクに対し,案2よりも対応コストが低い案1を選択したかったのはなぜか。50字以内で述べよ。
C君は,表2のNo.3のリスクに対して,対策案の内容どおりに実施することで,ユーザ部門の合意を得た。要件定義工程が始まり,テーマ別検討会が開始された。工程の半ば頃,意思決定の結果の一部について,B社の関連部署から不満の声が上がっているとの話を,ユーザ部門の1人から耳にした。C君は,④新たなリスクを懸念した。